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東京高等裁判所 平成10年(行ケ)127号 判決 1999年2月25日

静岡県富士宮市宮原444番地の9

原告

株式会社遠藤技研

代表者代表取締役

遠藤賢二

訴訟代理人弁護士

阿部浩基

諏訪部史人

静岡県富士市今泉字鴨田700番地の1

被告

ジャトコ株式会社

代表者代表取締役

阿部隆

静岡県富士市大渕2429番地の3

被告

ビヨンズ株式会社

代表者代表取締役

後藤孝

被告ら訴訟代理人弁理士

福田賢三

福田伸一

福田武通

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  原告が求める裁判

「特許庁が平成8年審判第21665号事件について平成10年3月12日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決

第2  原告の主張

1  特許庁における手続の経緯

原告は、考案の名称を「対峙ローラを有する切換器具」とする登録第1919056号実用新案(この登録に係る考案を、以下「本件考案」という。)の実用新案権者である。なお、本件考案は、昭和60年9月6に日登録出願され、平成4年7月22日に実用新案権設定の登録がされたものである。

被告らは、平成8年12月27日に本件考案の実用新案登録を無効にすることについて審判を請求した。特許庁は、これを平成8年審判第21665号事件として審理した結果、平成10年3月12日に「登録第1919056号実用新案の登録を無効とする。」との審決をし、同年4月9日にその謄本を原告に送達した。

2  本件考案の実用新案登録請求の範囲(別紙図面参照)

断面U字形に保持部を折曲形成し、この保持部には保持部の一側と他側との間に架設され且つ対峙させた第1ローラと第2ローラとを設け、両ローラの回転軸の圧入によってこの回転軸を遊動可能に拘束支持し軸受として機能するとともに入口幅が前記回転軸径よりも小なる支持孔を設け、前記保持部の一側と他側との解放側端部間には構造を堅固とすべく棒状支持部材の一端を固着したことを特徴とする対峙ローラを有する切換器具。

3  審決の理由の要点

別紙審決書の理由の一部の写しのとおり

4  審決の取消事由

審決は、本件考案はその登録出願前に日本国内において公然実施をされた考案である旨判断している。

しかしながら、本件考案を実施した自動車部品は、市販される自動車の内部に組み込まれているものであるうえ、同部品を分解検分しても、本件考案が特徴とする構成(特に、両ローラの圧入によって回転軸を遊動可能に拘束支持する構成)を知ることは困難であって、このことは、同部品が単品で取引きされていたとしても何ら変わりがない。

したがって、本件考案は、その登録出願前は秘密の状態に保たれていたというべきであるから、審決の上記判断は誤りである。

第3  被告らの主張

原告の主張1、2は認めるが、3(審決の取消事由)は争う。審決の認定判断は、正当であって、これを取り消すべき理由はない。

原告は、本件考案を実施した自動車部品は自動車の内部に組み込まれているものであるうえ、同部品を分解検分しても、本件考案が特徴とする構成を知ることは困難である旨主張する。

しかしながら、本件考案を実施した自動車部品は、パーキングロッドと通称されるものであるが、これが組み込まれているオートマチック・トランスアクスルは、整備工場において日常的に分解整備が行われているものである。のみならず、本件考案を実施した自動車部品は、単品としても、補修用のパーツとして整備工場等に供給されており、その構造は、守秘義務のない自動車整備工場等の作業者等によって十分に理解されていたものである。したがって、本件考案はその登録出願前に日本国内において公然実施をされた考案である旨の審決の判断に、誤りはない。

理由

第1  原告の主張1(特許庁における手続の経緯)及び2(審決の理由の要点)は、被告らも認めるところである。

第2  甲第2号証(実用新案公報)によれば、切換器具は2つのローラを遊動可能に軸支して動力を伝達する部材であって、例えば、オートマチック車のシフトレバーと変速機との間に介設され、シフトレバー操作時の動力を変速機側に伝達して円滑な変速切換動作を可能にするものであるが(1欄21行ないし26行)、本件考案は、従来の構成では強度が低いうえ、性能が均一な製品を製作することが困難であることを解決すべき問題点として捉え(2欄2行ないし26行)、その実用新案登録請求の範囲記載の構成を採用した(1欄2行ないし10行)ことが認められる。

第3  原告は、本件考案を実施した自動車部品は自動車の内部に組み込まれているものであるうえ、同部品を分解検分しても、本件考案が特徴とする構成を知ることは困難であるから、本件考案はその登録出願前は秘密の状態に保たれていたというべきである旨主張する。

検討すると、本件考案の登録出願前に、本件考案を実施した切換器具が原告によって大量に製造されて被告ビヨンズ株式会社に納品され、被告ジャトコ株式会社によってトランスミッションに組み込まれ、このトランスミッションが訴外マツダ株式会社によって自動車の動力伝達装置に組み込まれていた事実は、原告も認めて争わないところである。そして、トランスミッションが、通常の自動車整備工場等において日常的に分解整備されていることは、当裁判所にも顕著な事実であるところ、本件考案の構成は、前記実用新案登録請求の範囲からも明らかなように、さして複雑なものではない。したがって、本件考案を実施した切換器具の構造は、通常の自動車整備工場等の作業者等によって十分に理解されていたと解するのが相当であるから、本件考案はその登録出願前に公然と実施されていた旨の審決の判断は、正当として是認しうるものである。

第4  よって、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日 平成11年1月21日)

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 春日民雄 裁判官 宍戸充)

別紙図面

<省略>

第1~5図はこの考案の実施例を示し、第1図は切換器具の保持部の組立斜視図、第2図は切換器具の平面図、第3、4図は夫々切換器具の使用状態を示す概略図、第5図はオートマチツク車のシフトレパーの概略斜視図である.

図において、2……切換器具、4……保持部、6……第1ローラ、8……第2ローラ、12……支持部材、20-1A、20-1B、20-2A、20-2B……支持孔、21……突起、22、24……回転軸、36……傾斜肩部である.

3.当審の判断

(1)静岡地方裁判所富士支部において平成8年4月25日及び同年6月27日に原告会社(本件の審判被請求人)代表者・遠藤賢二に対する証拠調べがなされ、その結果作成された本人調書(甲第33、34号証)には、次の事項が記載されている。

1)甲第20号証(本件における甲第24号証のうち56年12月07日の日付けのある図面。以下、「地裁における甲第20号証」という。)に示されるパーキングロッド(本件考案における切換器具に相当する。)は、本件考案のものを量産した際のものであり、ローラーホルダー(本件考案における保持部に相当する。)を逆のU字形にして支持棒(本件考案における棒状支持部材に相当する。)を溶接した点とローラーホルダーヘのローラーの取り付けを圧入にした点を特徴としている。

2)前記量産品は、昭和57年3月から昭和60年4月までに合計67万6138個をビヨンズ株式会社に納品した。

3)納品後は、ジャトコ株式会社で受け入れ、ミッションに組み入れした後、マツダ株式会社に納品され車両に組み込まれていくと思う。

使用された車種は、マツダのファミリアとカペラだと聞いていた。

(2)前記1)における「地裁における甲第20号証」にほ、前記1.のとおりの本件考案の構成が図示されており、また、証言されている2つの特徴点も本件考案と一致していることから、前記2)の納品された量産品は、本件考案に係る製品(以下、「本件量産品」という。)であると認められる。

(3)この本件量産品は、昭和57年3月以降、前記のとおり大量に自動車部品としてビヨンズ株式会社に納品されていたことから、その3年数ヶ月後である本件実用新案登録に係る出願の出願日である昭和60年9月6日までの間に販売された自動車に組み入れられていたことは疑問の余地がない。

また、この点については、審判請求人が堤出した弁論陳述された準備書面の内容とも一致するとともに、審判被請求人も前記2.(2)2)のとおり、答弁書において「本件考案に係る製品はマツダ株式会社のファミリアとカペラに使用されていたが~」と肯定しているものである。

(4)そして、審判被請求人は、販売された自動車に使用されていたからといって、これは秘密裡に使用されていたものであり、公然実施されていたとは言えないとの主張をしている。

しかしながら、本件量産品が組み入れられた自動車は、不特定の者に販売されるものであり、購入者は、自ら又は修理工場等で自動車を分解して本件量産品の構成を知り得ることになる。まして、本件量産品は単品取引され得る自動車部品であることから、これが組み入れられた自動車が販売されていた以上、本件考案は秘密の状態にあったということは言えず、公然実施されたものである。

4.むすび

したがって、本件考案は、本件実用新案登録に係る出願の出願前に日本国内において公然実施をされた考案であって実用新案法第3条第1項第2号に該当し、本件考案に係る実用新案登録は、同法第3条第1項の規定に違反してなされたものであり、同法第37条第1項第2号に該当し、無効にすべきものである。

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